会議室を出てすぐに座り込んでしまった僕は、ヨロヨロと新鮮な空気を求めて階段近くの踊り場へと向かった。
この踊り場は駐車場から上がってくる階段に直結しているため、踊り場に窓はなく1メートルほどの高さの壁の上は風通りの良い空間になっている。
踊り場にたどり着いた僕は、壁に覆いかぶさるようにしながら、1階を見下ろすような形で呼吸をしていた。
先月の研修時に起こった謎の体調不良と似ているが、今回は以前にも増して体が悲鳴を上げているように感じた。
「何だ、何なんだ!絶対おかしい」
新鮮な空気を吸っていると徐々に動悸も落ち着いてきて、さっきまでの激しい嘔気やめまいは収まってきた。動悸は落ち着いてきてはいるが、自分で聞こえるほどの動悸は継続して聞こえている。
「ドクン…ドクン……ドクン」
こんなにも自分の心臓が主張してきたことはなかった。よく緊張した時に、心臓が口から飛び出しそうだ!と聞くが、今回はそれに拍車をかけ、自分の心臓の音で周りが聞こえなくなるほどだ。
時間にして1分ほどだろうか、しばらくすると落ち着いてきた。先月に起きた体調不良の恐怖心がよみがえってきたが、その時よりも恐怖を感じる。会議は始まっているので、とりあえず息を整えて早く戻らないといけない。
ゆっくりと深呼吸をしてから会議室へと向かって行った。
会議室に戻るもまだ会議は始まってなく、静かに自分の席に座ることにした。ちょうど今から参加者の自己紹介が始まるところだった。
僕を入れた10名の参加者がいて、順番に会社名と所属そして氏名を紹介していった。僕の順番は8番目だった。
何人か顔見知りの人もおり淡々と自己紹介は進んでいった。
僕の順番になり会社名と所属、氏名を無事に伝え終わった時にそれはまた起こった。次の参加者が自己紹介をしている最中に、また激しい動悸とめまいが襲ってきた。
目の前がグニャとなるような感覚と三半規管がおかしくなり、目が回ったような感覚に襲われた。それと同時に嘔気と脂汗も出てきて、さっきと同じように「ここにいてはいけない、早く外に出たい!」と言う激しい衝動も襲ってきた。
10番目の参加者が自己紹介している最中に我慢できなくなった僕は、再びスマホを取り出し耳に当てながら、顔見知りの参加者に「また、会社からだ」と口パクで伝えながら足早に外へと向かって行った。
再び外に出た僕は、先ほどと同じように階段の踊り場へ向かった。
大きく深呼吸をして動悸を落ち着かせる。何度も繰り返すが今回はなかなか落ち着かない。次第に焦りが出てきて余計に苦しくなってくる。
何度も大きく深呼吸を繰り返していくうちに、徐々に落ち着きを取り戻してきた。
「よし、今度こそ大丈夫だ」
恐怖心はありつつも会議に戻らなければいけない。
ぐっと握りこぶしを作り会議室へ戻っていくが不安は拭い去れてはいない。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫」
そう心で呟きながら会議室へと戻ると、すでに会議は始まっており白熱した議論が繰り広げられていた。顔見知りの参加者が僕の顔をチラッと見たが、それ以上に何かあるわけでなく僕は、静かに自分の席に座った。
会議に参加しても、またさっきのような吐き気が襲ってきたらどうしよう?と言う恐怖心は常にあり心ここにあらずといった感じだった。
数分後、また同じように激しい嘔気やめまいが襲ってきた。今回は1ミリも我慢せずにスマホを取り出して耳に当てながら会議室を後にした。もちろん電話などかかってきていない。
「もうダメだ、あそこ(会議室)には帰れない」
ヨロヨロしながら先ほどの踊り場とは違うエレベーターホールに向かった。そこにはソファーが置いてあるのを知っていたからだ。虚ろな目をしながらソファーを見つけると崩れ落ちるようにソファーへと倒れこんだ。
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