車に乗り込もうとドアを開けると、車内からムワッとする重い空気が流れ出てきた。季節は七月の初旬ではあるが、爽やかな天気とは裏腹に炎天下に駐車していた車内には不快な温もった空気が充満していた。
車内に乗り込んだ僕は、この温められた空気に耐えられず、すぐに窓を全開にした。
キーを回すと、わずかに感じる振動とともに勢い良くエンジンが回り始めた。少しでも早くこの場から離れたい僕は、すぐさまシフトをバックに入れ駐車スペースからその場を離れ道路へと向かった。
右ウインカーを出して早く帰路につきたかったが、こういった急いでいる時ほど車の流れが止まらない。ルームミラーに会議室がある建物が映ると急に動悸が激しくなってきた。
「大丈夫、もうあそこに戻らなくていいんだ」
そう自分に言い聞かせ、車両の流れが途切れたタイミングで右折し会社へと向かった。しばらく車を進めると、さっきまでドキドキしていた動悸が弱くなっていくのが分かった。自分にとって恐怖の場から遠ざかることで僕の頭の中は安心の文字でいっぱいになっていた。
五分ほど車を走らせると街から離れ郊外に向かうことになる。
ここまで来ると完全に気持ちは晴れている。きれいな川を見ながら青空を眺める余裕すらある。あれは一体何だったんだろうか?そして、今は何で苦しくないんだろうか?大きな川沿いを走らせながら、さっき自身に起こったことを考えてみた。
ひと月前の研修でもそうだったが、よく考えると今回もシチュエーションが似ていることに気づいた。研修では研修室に入り出られなくなった状況になると気持ちが悪くなり、めまいや動悸そして吐き気が襲ってきた。
今回も同じで、会議室という安易に出られない環境に置かれた直後にめまい、動悸そして吐き気が襲ってきた。
「…っと言うことは、何かしら部屋が関係しているのか?」
理由は分からないが、ある状況下(会議や研修に参加した時)に身を置くと、どうやらさっき起きたような体調不良が波のように襲ってくるようだ。
しばらく車を走らせていると遠くから見たことのある車が接近していることに気づいた。会社の社用車だ。きっと僕と交代で会議に出席するために会議に向かっている社員が載っているんだろう。一体誰だろう?
その車が近づいてきた時に乗っているのがN先輩だと気づいた。会社に電話した時は、N先輩が「俺が行くわ」っと言っていたが、まさか本人が僕の代わりに会議に出席するとは思っていなかった。すれ違いざまにお互い手を挙げ「大丈夫か?」「ありがとうございます」と無言の挨拶を交わす。
N先輩は一つ年上だが、入社して以来の付き合いでN先輩の生まれたばかりの子供に絵本を読んであげたり、飲みの席では車で自宅までお迎えに行く間柄だ。正確に言えば上司になるんだが、砕けた間柄でもはや僕が先輩をイジっているほどだ。
車で通り過ぎる一瞬だったが、ことの重要性を理解してくれていると確信できる一瞬でもあった。
それから五分ほどすると見慣れた会社が見えてきた。
会社の敷地内に入ると急にドッと疲れが押し寄せ、僕の頭の中は安心すると同時にこの一連の謎の体調不良を信じてもらえるか不安でいっぱいになっていた。
駐車場に車を止め、歩いて会社の正面玄関に向かうが足取りが重い。
当然、理由を上司に報告しないといけない。しかし、僕の身の上に起きた謎の体調不良を自分でも理解できていないし、ましてや今はその体調不良は起きていない。電話をした時は死んでしまいそうなほどのめまいと動悸、そして吐き気が襲ってきていたのに。
信じてもらえるだろうか、不安で仕方がなかった…。
続きを読むにはこちらから⤵️
初めから読むにはこちらから⤵️