思ったよりも早く目が覚めた僕はスマホの時計を見てみた。
5時半、普段でも起きるのは6時半なので1時間も早い。しかも、僕は朝が弱くなかなか起きれないタイプにもかかわらず、自然に目が覚めるとは…緊張しているのだろうか?
病院の外来受付は8時半からで再診は8時からだ。
早めに病院に行って、9時から始まる診療の早い時間帯の順番を確保したいと思っていた僕は、まだ眠れる時間ではあるがシャワーを浴びるために起きることにした。
台所ではすでに起きていた奥さんが、朝食の準備をしたり洗濯物をたたんだりしていた。リビングに出てきた僕に気づいた奥さんは
「おはよっ、早いね。眠れた?」
朝から元気な奥さんは完全に朝型で、反対に夜はめっぽう弱い。
「う~ん、眠れた感は少ないけど…まぁまぁかな」
そう答えると寝ぼけた顔をシャキッとさせるためにシャワーを浴びに行った。
毎朝シャワーをしているが、ここ最近は吐き気がすることが目立っていた。理由は分からないが、朝シャワーをする時にはかなり激しく「おえっ」となってしまう。何時ごろからか覚えていないが、だいたい半年前ぐらいからな気がする。
これも、そのパニック障害と関係があるのだろうか?
シャワーも終わり簡単な朝食をとり終えた僕たちは、出かける準備をしている時だった。眠たさとは違う”生あくび”が頻繁に出てくる。まだ眠いのか?と思ったが眠気は全くない。それに伴い少し落ち着かない気持ちになり、動悸が徐々に激しくなってきた。
これは、研修や会議の場で起こった体調不良と非常に似ている感覚で、今となれば「パニック発作かもしれない」と思える現象だった。
僕の動きが急に止まったのと、やたら生あくびをしている僕に気づいた奥さんが
「大丈夫?とりあえず座って」
とソファーに座るよう促し、フラフラしながら僕はソファーに腰を下ろした。
動悸は激しく、少しめまいもしており目をつむると頭が揺れているような感覚だった。
どれだけの時間が経過したか分からないが、落ち着きを取り戻した僕は奥さんに
「たぶん、これがパニック障害の症状なんだと思う。何でこうなるか分からないけど緊張に似た状況に置かれたら、こうなるような気がする」
と僕なりの考察を伝えてみた。
僕が、少し震える声で自分の置かれている状況を奥さんに説明したのを聞いて
「苦しいだろうけど、その症状が見れて良かった。昨日までは、こんなことが起きたという説明だったけど、実際に自分の目で見てより深刻さが分かった。ここ(家)は大丈夫だから、落ち着いたら出発しよ」
水を飲み、しばらく休んでいると先ほどの症状は治まり、気分不良も無くなっていた。明らかに僕の顔に変化が起きたことが分かると、奥さんも少し安心したのか笑顔になっていた。
「よし、出発しよう」
ふと時計をみると時刻は7時45分を少し過ぎたぐらいだった。
信号で止まった時に、通勤と思われる車や学生の自転車が目の前を通り過ぎ、 いたって普通な日常が僕の目の前で起きているが、僕は今病院に向かっている車内にいる。
そう考えると急に悲しくなってきた。
僕は、あの日常の中へ戻ることができるのだろうか?
病院には8時15分ころに到着したが、予想よりも人が多いことに軽く絶望し、それでも受診することで元気になれるという希望を持って受付に向かっていった。
そこのY病院は近隣の病院の中でもかなり規模が大きく診療科も多い。多くの専門科があることから、当然患者も多く待ち時間が長くなるのはいたって普通なことかもしれない。
Y病院は初めに受付で保険証を提示すると番号札を渡される。
広い待合室で待機し、その番号を呼ばれると”専門の聞き取りをする人”がいる小部屋に通され、そこでどんな症状で病院に来たのか?を細かく聞かれる。その聞き取りの結果「〇〇科に行ってください」「△△科に行ってください」と振り分けられるシステムだった。
僕の番号は早めに到着したにもかかわらず38番だった。
それは仕方がないとは言え、待合室での待機中に気分不良が起きることが不安で仕方がなかった。そんな”万が一”のことを考えていると、やはりと言うか当然のように動悸が激しくなり、嘔気も襲ってき始めた。
「またか…」
そう思いながら僕はギュッと拳を握りしめ、目をつむると早く気分不良が収まってくれ!と特定の何でもない神に助けを求めるしかできなかった。
地獄の苦しみを何とか耐えている時に聞こえた番号の呼び出しは7番。
…僕の順番はまだまだ先だった。
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