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【パニック障害 体験記 #9 】電話の向こうに

電話がかかってきたという声で楽園から現実に引き戻された。

 

いったいこの謎の体調不良はいつまで続くんだろうか?ましてや、めまい何てほとんど経験したことがなかっただけに脳の病気かもしれないという新しい恐怖も感じていた。

 

電話がかかってきているのでモタモタできない。この楽園とも言える『屋外』から、いつ体調不良になるかも分からない部屋に戻らなくてはならない恐怖が包み込んでくるが、先方がある以上は仕方がない。

 

意を決して事務室へ戻り電話口に出た。

 

相手は会社は違えど同じ業種で飲みに行ったりもしている、信頼できる知り合いからだった。

 

「すぐに電話に出れないほど忙しいみたいですね」

 

そう言ってきたのはM社のB氏だった。

 

「いやいや、忙しいのは忙しいけどちょっと外に出てて」

 

そんなやり取りをしながら、要件を聞くと次回に行われる社外会議(同業者の同職種で集まる定例会議)についての内容だった。

 

そういえば次回の会議で行うための資料を作らなければならなかった。ここ数日は忙しかったし、研修中に起こった謎の体調不良でめっきりやる気を失っていた。

 

資料を作成していなかったことを詫びて、会議までには作成することを伝えた。

 

「珍しいですね、いつもなら完成しているって話なのに何かありました?」

 

何かと鋭いB氏だけに何かを察せられたのではないかと焦ったかが、ここは冷静に落ち着いて、ただ間に合わなかっただけだと謝り電話を切ることにした。

 

受話器を置きながら心臓がドキドキしていることに気付いた。しかし、これは今までの動悸と違い、バレてはいけないという焦りからのドキドキだった。

 

でも、B氏とは公私ともに仲良くさせてもらっている。B氏の声を電話で聞いた時に心の中で「助けて」と思ったのは事実だ。いつかこの謎の体調不良のことを相談してみよう。きっと力になってくれるはずだ。

 

力なくそのまま自分のデスクに座りパソコンを眺めている。

 

モニター越しには忙しそうに働いている同僚がいる。この前まではあの同僚と同じようにバタバタ時間に追われながら仕事をしてきたのに、今では目の前にある仕事に手がつかない。時間の余裕なんて全くないにもかかわらず。

 

「僕はおかしくなってしまったんだろうか…」

 

心の中でつぶやいた。

 

デスクの隅に資料のような紙が置かれている。見てみると付箋が貼ってあり「研修会のアンケートです。三日以内に提出のこと」と書かれていた。

 

他の会社ではどうなのか分からないが、ウチの会社では研修があれば必ず書かされる。

 

感想やら気付いたこと、また今後自分が実践してみたいことなど、まるで学生に書かせているみたいだ。しかもこのデジタルな時代にもかかわらず手書きでの提出。内容よりも期間内に提出させることに意味を見出しているようで、この前時代的なアンケートが嫌いで仕方がなかった。

 

深いため息とともにアンケート用紙を見ていると、アンケートなどどうでもよくなってきた。今までは嫌々ながらも後回しにするのが嫌だったから、すぐに書いてはいたが今回ばかりは全くやる気がしない。

 

僕はアンケート用紙をとると、デスクの中の奥にしまいこんだ。

 

「もうどうでもいい…」

 

気が付けば、僕を苦しめている謎の体調不良は一旦収まったようで、残りの仕事に手をつけることにした。またいつ気分が悪くなるか分からない。

 

できる時にしておこう。

 

そこから退勤時間まで集中して仕事をすることができ、何とか今日中にしないといけない仕事を終えることができた。

 

ふと、時計を見ると18時を少し過ぎている頃だった。

 

本来の就業時間は17時までだがウチの会社にはタイムカードは存在しない。

 

出勤時間と退勤時間を記入して印鑑を押す。朝はほとんどの社員が8時と記入するのは変ではないが、退勤時間は本来皆バラバラになるはずだ。

 

しかし、ウチの会社は当然のように皆17時と記入することになっている。そう「記入すること」になっているのだ。

 

当然、17時以降は残業していないことになるが、17時からはいつものサービス残業が始まることになる。

 

会社の理事長が言うには

 

「ちゃんと仕事ができる人は時間内に終われるはずだ。時間内に終えることができない社員に残業代が発生するのはおかしい。残業している人の中には、ワザと残業代を稼ぐために居残りしている人がいる。本当に残業している人と見分けがつかない。だから残業代は払えない」

 

つまり、本当に仕事で残業している人に対しても、見分けがつかないから残業代は払わないという理屈。理事長の周りにいる経営者幹部のイエスマン達は誰一人この理屈がおかしいことを理事長に伝えない。

 

こんな会社にいることはおかしいことは分かっているが、だんだんと諦めにも近い気持ちになっており、当時はこのサービス残業が当たり前と思っていた。

 

今日は何とか仕事を終えることができたし、やはり体調もすぐれないから少し早いが退勤しようと思った。使ったコーヒーカップを洗い、帰る支度をしていると誰となく決まって言うセリフがある。

 

「もぅ帰る?」

 

これは理事長の周りでヘコヘコしている事務局長の真似だ。

この事務局長に何人の社員が泣かされ、そして病気になっていったか。

 

今で言うパワハラ・モラハラの塊のような人間だ。

 

今だったら一発でアウトだが、未だにこの上司は会社に居座っている。この上司の口癖が「もぅ帰る?」だった。

 

新入社員の時は、このセリフを言われると帰れなくなり、遅くまで残って仕事をしていた。しかも、この上司は「仕事は遅くまで残れば残るほどできる社員」と思っている。

 

僕たち世代の社員は、この上司から連日連夜パワハラを喰らっていたので、その時の名残もあり、誰かが自分より早く帰りそうになったら「もぅ帰る?」と言って笑わせていたのだ。

 

「あぁ、もぅ帰るわ(笑)」

 

そう言い残して関係者出入り口へと向かった。

今日は時間もあるし、帰ってこの謎の体調不良のことを調べてみよう。何かが分かるかもしれない。 

 

 

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