「……ですから…です。なので、こう言った場合は……です」
分かりますか?
先生が僕に薬の説明をしてくれていたが、パニック障害という病名を宣告されたことにショックを隠し切れず全く耳に入ってこなかった。
パニック発作の時とは違う動悸が先生にも聞こえるんじゃないだろうか?と思えるほど自分の耳に聞こえている。もはや動悸よりもバスケットボールのドリブルのような感じだ。
これじゃいけない!と顔を上げて先生の声に反応するが力ない。
覇気が全くなくなった僕の顔に先生の方が気付いたようだが、そこに特別優しい言葉はあるわけではない。先生からすれば毎日のルーティンワークに過ぎないし、きっといちいち反応していたら先生も疲れるんだろう。
僕は改めて薬の効能と注意点を聞きなおして最後に
「これを飲んだら治りますか?」
無謀な質問と分かっていても聞かずにはいられなかった。
ほんの一瞬先生は言葉に詰まったが、ゆっくりと言葉を選ぶようにそして、僕が不安に思っているだろうことを理解した感じでこう答えた。
「正直に言うとまだ、〇〇さん(僕の名前)に合うお薬が分かりません。今回のお薬はこういった症状の時に初めに服薬してみるお薬になるので、それを使ってみてから〇〇さんに合う薬を探していきます」
確かにそうだ。僕の症状は先生によるとパニック障害だが、この手の薬は多岐にわたっており、いきなり強めの薬を使ってしまうとかえって副作用で悪い影響も考えられるという。
徐々に僕に合うベストな薬を探していく感じのようだ。
先生は僕の焦りにも近い質問に対して理解してくれているようで、他にも何か聞きたいことはないか促してきた。
「先生、治るんですか?」
きっと精神科を受診した患者はみな同じ質問をするんだろうと思ったが聞いてしまった。
「パニック障害は治ります。そしてこの病気が原因で亡くなることはありません。ただし、私が先ほど原因かもしれないと説明した内容を改善する必要がありますし、それと同時に服薬していけば必ず治りますよ」
安心すると同時に僕は畳みかけるように次の質問をした。
「いつになれば治りますか?」
先生はふーっと一息をつくと
「パニック障害という病気は治るまでには時間が必要です。早い人で1年ぐらいの人もいますが、一般的に5年や10年またはそれ以上かかることも決して珍しくありません。焦る気持ちは分かりますが時間をかけて確実に治していきましょう」
先生の後ろに座っている看護師がカタカタとパソコンに僕と先生の会話と思われる内容をタイピングしている。そのタイピングの音が鳴りやむと同時に先生から
「では、3日後にまた来てください。その時に今回のお薬の様子を聞かせてもらいます。次回からは予約で来てもらいますので、今日みたいな待ち時間は無いと思いますよ」
ホッと安心した。今回のように長時間待たされるのは厳しかったし、予期不安に襲われている状態での長時間待機は絶望に近かったからだ。
その後、先生と次回の診察日を話し合い部屋を後にすることに。
「ありがとうございました、失礼します」
そう先生に言い扉を開けると待合室にいた人の数人が僕を見ながらヒソヒソ話している。
”あの男性も何かあったのかな?”とか”若いのに大変ねぇ…”と言っているのか分からないがきっとそんな感じの会話をしているんだろう。
僕は奥さんの隣に座るとひと呼吸してから
「パニック障害だって…」
僕はそれしか言えなかったが、奥さんは何も言わずに頷いている。
しばらくすると看護師が出てきて次回の診察日と処方箋の説明、そして診断書の申請の手続きを教えてくれた。診断書は有料だが今後会社で必要になるかもしれないのでもらっておくことにしておいた。
説明を受けて席を立つと
「お大事に」
優しい声で声をかけてくれたが、この言葉をこれから何度聞くことになるんだろうと思うと決して気分が晴れることはなかった。
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