音がない世界というのは、きっとこんな世界なんだろう。
部屋に入ってきた奥さんは、突然僕から告げられた聞いたこともない単語に戸惑っていると同時に、きっと良くないことが起こったと認識するには、十分な時間でもあった。
僕の言った言葉の意味は分からないが、僕の顔を見れば普通じゃないことが起きていることはすぐに分かる。絶望に打ちひしがれた僕の顔は血の気が引いており、この静かな世界は僕たち夫婦にとって永遠に時間が止まっているようにも思えた。
張り詰めた空気の中、置き時計の秒針が動く音だけが部屋に聞こえ、その音がよりお互いの緊張を高めていた。しかし、間も無くしてその張り詰めた空気を牽制するように僕は声を発した。
「最近調子が良くなくって、調べてみたら…そしたら…パニック障害だって」
「パニック障害?」
何を言うかと思えば「パニック障害になったかも」と言う僕の言葉を、イマイチ理解できていない奥さんは不思議そうな顔をしていたが、すぐに
「命に関わることじゃないんだよね?」
「うん、死ぬとかそんなんじゃないけど」
力なく答えるが、実際にパニック障害で死ぬことはない。
そこで、僕が1ヶ月前の研修の時に起こったことと、今日の会議で起こったことを細かく説明し始めた。
急にめまいがして立っていられなかったこと、嘔気が襲ってくること、信じられないほどの不安感と、その場からすぐにでも逃げ出したいぐらいの恐怖心が襲ってくること、また窒息してしまいそうなほど呼吸が苦しくなることなど、この1ヶ月の間に自分の身に起こったことを全て話した。
そして、話の最後に「もう、今までのように働けないかもしれない」と奥さんに伝えた。
時計の長針はちょうど一周をしていた。
話し終えた僕は自然と涙が出ており、少し呼吸も荒くなっていた。そんな僕の姿を見ていた奥さんは、ゆっくりと口を開きこう言った。
「そんなに苦しかったんだね、ゆっくり治していこう。仕事だったら大丈夫、私が食べさせてあげるから」
僕は苦しかった胸の内を話せたことと、理解してくれた安堵感、そして奥さんにこんなにも迷惑をかけてしまったという感情が一気に押し寄せ、しばらく涙が止まらなかった。
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