あまりに強烈過ぎた1日だったため仕事が捗らず帰ることにした。
社員専用駐車場には僕の車しか残っていない。都会とは違い田舎にある会社なので車通勤が一般的だ。会社帰りに一杯やっていくようなことはほとんどなく、ただ家と会社を往復するだけだ。
今思えば賛否はあるだろうがノミニケーション的なことがあれば、少しはストレス発散できてたんじゃないかと思うことがある。あまりにも僕はストレスをため過ぎていた。
会社と家は車で片道20分ぐらいで、いつもはラジオや音楽を流しているが今日は聞く気にはなれなかった。どうしても今日起きた出来事を思い返してしまう。あれは何だったんだ?
あれこれ考えながら家へ向かうこと20分、もちろん何も解決するわけでもなく家に到着した。奥さんの車はすでに帰ってきており、アパートの玄関近くにある換気扇から夕食のいい匂いが漂っていた。
アパートの部屋から漏れる明かりと、わずかに聞こえる生活音が1日の疲れを癒してくれる。足取りの重い日だったが、この時ばかりは足取り軽く玄関に向かって行った。
「ただいまー」
いつも綺麗にしてくれている玄関にオシャレな消臭グッズが置いてある。横目に見ながら靴を脱いでいると、パタパタとスリッパの音が聞こえリビングの扉が開く。
「おかえり」
顔だけ出した笑顔に今日1日の疲れが浄化される。
何かを察したのか、いつもはそのままリビングに戻る奥さんだが、そのまま玄関に迎えに出てきてくれた。
「凄い疲れた顔してるけど、大丈夫?」
鋭い問いかけに思わず言葉を失った僕は、引きつった笑顔のままいつものように茶化しながら答えた。
「相変わらずアホなことばっかりよ、何してんのっつう話」
上司に対する愚痴や会社の迷走ぶりをふざけながら答えた。
僕たち夫婦は同じ会社に勤めているが、奥さんは今日研修が行われた支店に勤務しているため仕事中はあまり顔を合わすことはない。でも、共通の上司や顔なじみの社員は多くいることから、お互いの職場環境はよく知っている。
「今日の研修大変そうだったね、結構人数いたんじゃない?」
「30人くらいかな、人数多すぎて空気が薄くなってしんどかったよ」
空気が薄くてしんどくなった・・・
決して嘘をついているわけでないし、その時は空気が少ないことが原因だろうと本当に思っていた。でも、症状として起きためまい、嘔気、恐怖感は自分でも信じられない状況だったので伝えるのが怖かった。
「まぁね、あの研修室の広さで30人は辛いよね」
そう答えて夕食の準備に戻った奥さんの後ろ姿を見ながら、自分の体で何かが起こっているかもしれないと考えると恐怖で頭が一杯になった。
しかし、この時はまだパニック障害と言う言葉は頭の片隅にも存在していなかった。
その夜はいつもより早めにベッドに入った。あまりにも色んなことが起こりすぎていて体力的にも精神的にも限界だったからだ。
あれこれ考えてしまう性格なことから眠れない夜になると思っていたが、隣で眠る奥さんの寝息が聞こえると、不思議と恐怖感がなくなりいつの間にか眠りについていた。
そう、僕にとってのつかの間の休息だった。
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